2015/08/23

【小説】魔法使いのシンデレラ

魔法使いのシンデレラ

作:沙綺
※こちらはサンプル公開となっています。

「灰かぶり……」
「何か言ったかしら?」
さっきまで静かだった図書館に声が響く。少し低めの、それでいて透き通る声が図書館を満たし、重苦しい空気が漂っていたこの空間も、少し明るくなったような気がする。
 時間は午後三時を回ったところだろうか。懐中時計を確認する。
図書館の天井付近に申し訳程度に取り付けられた窓から入ってくる光は本を読むには不十分すぎるくらいだ。もちろん、太陽の位置も分からず、時間という概念が欠落しているような、そんな空間であるのだが……。窓からの微かな光を受ける人影に、私は続ける。
「ねぇ、あなたもうちょっとお洒落したほうがいいんじゃないの?」
もっとお洒落をしろと言われた魔女は不満そうな顔をしながら本から顔を上げ、私を見つめる。そして不機嫌そうに答える。
「お洒落くらいしているでしょう。例えばほら……この髪飾りとか……」
そう言って自分の頭に付いている月の髪飾りを指さす。それは彼女なりの精一杯のお洒落であるようなのだが……。
「いつも変わらないじゃない、それ」
私が答えると、むきゅー、と息を漏らした。
いつも寝巻き姿で眠たそうに半目を開けている少女は私に何を言っても無駄だと知り、目を本に戻し。話しかけるな、という姿勢を取る。私も今までやっていた裁縫に戻る。薄暗く、少し埃っぽい図書館では裁縫どころか本を読むこともままならないので私達が座るテーブルは魔法のランプで明るくなっている。さすがは魔女の図書館である、と私は思う。自分の家にはこういったマジックは施していない。
この埃っぽい図書館でずっと過ごしている彼女はまるで……。
「確かになー。お客さんが来てるっていうのに、その格好は……」
黒い魔法使いは空気が若干読めないのか、もう終わった話をぶり返す。
「そうね。いつもと同じ格好というのもね……」
いつもと同じ巫女服を着た少女もそう言う。まあ彼女に関してはある種の制服といったところであるから、仕方ないような気もするが、それでも友人の家に訪ねてくる格好ではないと思う。
「この服が動きやすくていいのよ、それに……」
魔女はテーブルに集まっている私達を一度見渡して溜め息をついた。
「ここにお客さんなんていないじゃない」と。
「失礼だな、パチュリーは」
「あなたに言われたくはないわ、魔理沙。いつもここに来ては図書館の本を盗んでいって……早く返してくれないかしら」
一体何度この魔理沙とパチュリーのやり取りを見てきたのだろうか。次の魔理沙のセリフを私はもう覚えている。
「盗んだ訳じゃないぜ。永遠に借りてるだけださ」
いつものようにパチュリーは溜め息をつく。
「盗人はお客さんではないのよ。それと盗人にくっついてきた二人も、お客さんと言えるのかしら?」
酷い言いがかりではあるが、私は別に魔理沙についてきたのではない。ここに来る途中たまたま出会ったのだ、という反論は残念ながら流されてしまった。霊夢については済まし顔で、だから何、と言った風だ。
パチュリーはそんな私達に困ったような顔をする。彼女は溜め息をつくが、今日何度目の溜め息なのかは分からない。
「あら、私はお客さんじゃなくて、パチェ?」
「あなたはこの家の主人であり住人でしょう、レミィ?」
 また二人増えた、とでも言いそうな声と共に頭を抱えるパチュリー。そしていつからいたのか、いつの間にかこの紅魔館の主であるレミリアとそのメイドの咲夜が私達と同じテーブルの席についていた。
「でもこの図書館にとっての客であることに間違いはないんじゃない?」
パチュリーは「それもそうね」と返事をし、中断されていた読書に戻った。もう反論するのも面倒であるらしい。それを見たレミリアは不満そうに、紅茶はまだかしらと言い、咲夜が用意をしに図書館を出ていった。レミリアの紅茶だけでなく人数分を用意してくれないかと私は期待しておくことにする。
「でも確かに、パチェはもうちょっとお洒落してもいいんじゃない?」
レミリアは先程の話を聞いていたようで、私に同意してくれた。
「そうよ。あなたはスタイルもいいしかわいいし……。折角だから、ね」
何より、私が彼女のかわいい姿を見たいのである。
そう、パチュリー。
ああ、なんてあなたはかわいらしいのかしら。
そのふわふわした紫色の髪。対照的な白い肌。くるくると愛らしい瞳……。
そんな彼女に、似合う服を私は作りたい……!
「遠慮しておくわ、そんなの……どうせ私には似合うはずもないし……」
「そんなことないわ、パチェ。女の子は誰だってかわいくなれるものよ……。例え動かない大図書館であるあなたでも、ね。あら、咲夜、ありがとう」
紅茶を持って戻ってきた咲夜から真っ赤な紅茶を受け取ったレミリアは一口すする。私達には普通の紅茶を淹れてくれたらしい。ダージリンかしら。
「ねえ、咲夜。あなた確か結構服持っていたわよね。適当に見繕って貸してあげなさい」
あ、いや……と私が呟くもその声は小さくて聞こえなかったらしい。
「はい、お嬢様……」
と咲夜は答えるが、少し気が乗らない様子だ。
「ですがお嬢様。私の服ではサイズが合わないかと……」
まあ、ある一部分の布が明らかに足りないわよね……。口には出さないでおくけれど……。
ああ、そういえばそうだったわね、とレミリアが言ったのを聞いて、咲夜は笑顔が引きつった。
 じゃあどうしようかしら、とレミリアが呟き、周りを見回すが誰も反応をしない。用意したってパチュリーは着ないと皆思っているからだ……。
「あ、あの……」
テーブルにつく皆の視線が集中する。
「わ、私が作ってもいいけれど……?」

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